【UNDOWN 2001年10月25日発行】
「ちょっとはロックの幻想に陶酔したいっていうところで、足りなかった部分がもう1度、初恋の嵐をやらせることになった・・・っていうのは、うまいこと言
い過ぎですけど(笑)」
冴えないタレントを誰でもいいからあげろと言われたら、君は何人挙げられるかい?田代まさし、大
森うたえもん、ダンカン、風見しんご、久保田篤、三田村邦彦、・・・ま、どこまでも続く、キリがない作業だ。どいつもこいつも、どうしようもない。ただ、
シャレにならないヤツってことで考えると、どうだろう?そういうカテゴライズで選ぶと、キングはこいつしかいないでしょ?見栄晴。これはやばい。例えば、
君が街を歩いていて、突然、"君って、見栄晴似てるね"て言われたらどうリアクションする?泣くだろ、とりあえず。今だに独身、高校時代は趣味でジャズダ
ンス(笑)を習い、レオタード姿を雑誌で公表、実家は定食屋、代表作は今だに"欽ちゃんのどこまでやるの"ああ、どこまでいっても冴えないヤツ。しかし、
逆の意味で考えて、それが芸風だとしたら・・・んなことねえやね、ありゃ立派な天然ですよ(笑)
初恋の嵐の3人は、おせじにも冴えてる連中とは言いがたい雰囲気を、ばっちり醸ち出してる。ヘタすりゃ新橋あたりにたむろしている、平日半額バーガー好き
のサラリーマンにすっぽりと同化することさえ逆らわない雰囲気があるのだ。物事には逆らわない方が得策っていう人は、かなり多いと思うんだけど、まさにそ
れに近い。そこが怖いのだ、彼らの場合。ヴォーカルとギターを担当している西山くんに至っては、ある日突然逆ギレされて、ノド元に包丁を突き付けられてし
まいそうな危険性があるしな。ま、あくまで見た目だけの問題だったりするんだけど(笑)それに、まだ怒らせるようなことは何もしてないしな。これからする
かもしれないけど(笑)で、そんな初恋の嵐が突き付けたシングル"Untitled"。めちゃくちゃいいのだ。この言葉以外にうまい表現方法が見つからな
いので以下、カットでよろしく。
●ちょっと初級入門編ということで、結成のいきさつあたりから話を聞きたいんですけど、コモンビルの方が最初にあったんだっけ?
西山:コモンビルより前に実はあって。で、98年ぐらいですかね・・・僕とドラムの鈴木が同じ大学であって。埼玉県のとある大学の同級生で、音楽サークル
とかないような小っちゃい大学で、たまたまそういう音楽仲間が3人集まって。ちゃんとやりだしたのが大学ぐらいだから。で、やってて、ぼつぼつ都内のライ
ブハウスなんかでやり始めた中で・・・そんな中で知り合ったのが隅倉くんで。
隅倉:そうですね。
西山:あ、僕ね、大学1、2年の頃、メンバー募集かけた時があったの。下北や高円寺の古着屋さんとかで。楽器屋とかね。普通に"Player"とかでやっ
ても焦点絞れない感じっていうのがあったから、まるでしたたかに貼っていったのね。こういうところにくるヤツならってことで。そこにメロディオンズ結成前
の小寺良太から連絡があって。そこで軽いセッションをやったことがあって。ま、バンドを結成することもなく、三ヶ月くらいでポシャッたんだけど、ただそこ
からのちに僕が初恋の嵐を結成して、彼らがメロディオンズを結成して、企画とかで呼ばれたりしてたのね。そんな中で僕なんかはもともと19ぐらいのときに
サニーデイ(サービス)の洗礼を受けた世代だったりするんだけど、で、たぶんその当時のありがちなパターンとしてはっぴいえんどとかURCモノとかにいく
感じで、その中で当時別のバンドをやっていた玉川さんと知り合うわけなんですけど、"ちょっとカントリーロック的なことをやりたいんだ"ってことで誘って
いただいて。で、ある時期並行してやってたんですよ。ただコモンビルに専念しようかなっていう時期があって、いったん解散するんですよ、初恋の嵐は。それ
で、コモンビルに専念してるうちに、自分がギター弾くバンドやりたいなってことで始めたのが、去年の夏ぐらいかな。だから、知り合いとしての時期は長いん
だけど、トータルとしてはそんなに活動してないです。
●今、思い出したんだけど、オレ、コモンビル観てるわ。エイジアでチェインズとやってなかった?
西山:うん、やった、やった。
●コモンビルと初恋の嵐って比較されると思うんですけど。
西山:うん、比較されますね。
●コモンビルって、時代的に言うとバブルバスとか出てきた感じっていうのが強いんですよね。イメージありきってっていうか。
西山:あー、それは玉川さんの年齢的な部分も大きいとは思うんですよね。イメージありき・・・どっちかと言えばコンセプトありきって感じだと思うんだけ
ど。よりちょっとスキル感を重視した感じというか、そういうバンドを突き詰めてアメリカンロックに走ったっていうところはあるかな。
●なんか確信犯的なところはあるよね.
西山:そうですね。玉川さんもすごいしたたかなんで、そこいらへんはありましたね。ただ、ちょっと本物っぽい感じにしたいっていうのはあって。だからま
あ、僕の気分的には違うんですよね。コモンビルっていうのは、僕以外は10ぐらいの年齢差はあって、みんな大人な感じだから、あくまで4分の1って感じで
ね、それぞれのメンバーが。あんまり干渉もしないし。大人になっちゃって照れ臭いんですよ。スタジオでジャムセッションしようぜってことには絶対なんな
いっていうか。まずしたことないし。それはそれで客観的に見て大人な感じで楽しかったんだけど、ちょっとロックの幻想に陶酔したいっていうところで、足り
なかった部分がもう1度、初恋の嵐をやらせることになった・・・っていうのは、うまいこと言い過ぎですけど(笑)そんなところではあるかもしんないですね
(笑)
●で、“バラードコレクション”をリリースされるわけですよね。
西山:そうですね。
●あのときのサブカル観がひっかかったんですよ、正直な話。
西山:そうですか?サブカル観がなくないですか?めちゃめちゃナチュラルにやったつもりなんですけど。
●いや、楽曲は素晴らしいのよ。ただ、イメージの問題で。
西山:かなりストレートな感じだと思うんですけど。
隅倉:雰囲気がってことですよね。楽曲じゃなくて。そういう風に持ち上げられてしまったっていう。
●どっちかって言えば、ド真ん中ストレートだと思ってたのね。
西山:僕個人としては、かなり天然で作ったっていう部分は自負としてありますよ。
●それがそういう風には伝わらなかったんですよ。
西山:うーん。
●今回はね、ちゃんと伝わってくるんですよね。例えば、フットワーク的に言うならば、重くないんですよ。余計なものを削ぎ落した感じっていうのがあるんで
すけどね。天然っていうならば、こっちのほうじゃないかなっていうのはあります。
西山:あー、むしろこっちの方がそういう雰囲気だと。なるほどね。
鈴木:“バラードコレクション”はあれ以上は出せなかったですね。時間とかそういうものと技術的な面がね、やっぱり。
西山:僕の性質上、意識的にどっかで演出してしまった部分っていうのはあるかもしれない。うん。僕もね、ある種サブカル的雰囲気っていうのを排除していき
たいっていう思いはあるのね。そういう思いはどんどん強くなってきてて。でも、出はサブカルというかね・・・そこはしょうがないというか、それをふまえた
上で、すごいこう、ポップスのフィールドでやっていきたいっていうのはあって、だから、まあ具体的に言っちゃうと初期のサザン(オールスターズ)とかさ、
それが出来てたような感じがあるから。
●初期サザンはね、コンプレックスの塊だからね。出がサブカルなんだけど、本物のサブカルじゃないんだよね。どっかで芸能の匂いを振りまいちゃうってい
う。今だにあるらしいですからね、そういうの。山下達郎とか、吉田美奈子とか、そういうところでやっていきたいのに、ついテレビに出てはしゃいじゃうみた
いなね。
西山:ああ、でもそれはさ、サガなんじゃない?今ね、バイト先の有線でサザンばっかりかかるんですよ。初期のナンバーとか。聞いてるとね・・・微妙ですよ
ね、あの人たちは。ヒゲな感じというかね。
●ああ、ホントはサザンロックも好きなんだぞっていう。
西山:うん、そういう側面であったりとか、はがゆい感じがありますよね?煮え切らない感じっていうのが、初期のサザンにはありますよね。アルバムとか変な
曲入ってたりするし。
●でも、そういうところって似通った部分ってないですか?
西山:ああ、ありますよね。ぶっちゃげた話。そこを目指したいっていうか、そこしかおもしろくないんじゃないかっていう。めちゃめちゃビックマウスかもし
んないけど。初期の佐野元春ってことになっちゃうとまた違っちゃったりするんだけどね。きっかけは"ロングヴァケイション"
のリマスター盤なんですけど、あれがめちゃめちゃ良くて。80年代前後の日本のポップスっていうのが自分の中でブームになって。初期サザンとかもそうで
しょ?もしかしたら原田真二とかもそうなのかもしれないけど、そういう芸能とロックの狭間っていう感じかな?そこが今おもしろいし、そういうのってない
じゃないですか・・・って言うとまずいかな(笑)
●ないよ。要はあれでしょ?サブカルとオーバーグラウンドの狭間。
西山:そうそう。スピッツもくるりも違うんだよね。
●うん。彼らはサブカルだもん。
西山:そこにうまくやりがいを見つけだすというか、結果を考えて、うまくいくとは思えないんだけど、自分らの本質的な部分を考えて、そういう感じでやれた
らめちゃくちゃおもしろいんじゃないかなっていうことは思いますね。
(取材:鈴木大介)
*原文ママ掲載
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