【Player 2001年6月号】

初恋の嵐、なんて、ちょっとユニークで素敵な名前を持つバンドのことを知ったのは、確か一年くらい前だったと思う。コモンビルという、元ヒップゲローの玉 川裕高が始めた新しいグループのメンバーでもある西山達郎のリーダー・バンドだと聞いて興味を持ったのが最初だった。もっとも、実のところコモンビルより も初恋の嵐の方がずっと先に活動開始していたわけで、西山にとってはむしろこちらの方がホーム・グラウンド。コモンビルはまだOZから出たオムニバス 『So Far Songs』に一曲参加しているだけだが、初恋の嵐は、昨年12月にめでたくファースト『バラードコレクション』を発表。徐々にその存在が浸透し始めてき た。
初恋の嵐の現在のメンバーは、その西山達郎(Vo,G)、隅倉弘至(B)、鈴木正敏(Dr)の3人。ちなみに、昨年暮れのメンバー・チェンジという形で加 入したばかりの隅倉はメロディオンズの元メンバー。昔からの知り合い同士でよく対バンをした仲だったという。そもそも結成は97年のこと。
「最初は僕と鈴木だけでスタジオに入って。何をするというわけでもなくジャムってましたね。僕ら、根本的なところでは趣味が近かったんですよ。僕はカント リー・ロックが好きで、鈴木はジャズとかが好きだったけど、どこかで理解し合えるというか」(西山)
西山の個人的な趣味がカントリー・ロックにあって、コモンビルもそういう要素の強いバンドとして知られているだけに、リーダー・バンドのこの初恋の嵐など はさらにそういうイメージで見られがちなのだが、これが驚くほど自然体。特に何かルーツにあって、どういうサウンドで、というのがあからさまに見えたりす るバンドではないのがいい。強引に一言で説明すると、ニール・ヤングにも似た、シンガー・ソングライター風の歌を中心に据えた素朴かつ力強いギター・バン ド、ということになるのだろうが、曲によってはプログレっぽい要素もあるし、ジャズを思わせる匂いもある。
「初恋ではもっと素のままの自分をそのまま出せればいいなと思って。やらないことを無理にしないというか。消極的な意味ではなく、ごく自然にそうありたい というかね。最近、特にそれでいいんだと思えてきました」(西山)
さらに言ってしまえば、あまりマニアック過ぎない感じもいい。だからといって直球ド真ん中、というわけでもないが、やたらと濃い音楽マニアであることをあ まり感じさせない、いい意味での中庸さを打ち出すことに躊躇しない潔さがあるというか。だから、プログレっぽいといっても、ラ・ノイ!とかマグマではな く、あくまでピンク・フロイドやキング・クリムゾン。ジャズ風といっても、せいぜいコルトレーンやマイルス。そういうストレートさがある。そこが面白い。
「"B級サイケ、好き"とかっていうの、僕ダメなんですよ。それよりも"ジェフ・ベック、カッコいいじゃん"っていうような感覚がいいですよね。僕も個人 的にはマニアックなところまで行った経験があるんですけど、でも、結局手元に残るCDとかは限られてるし、単純にビートルズだとか3大ギタリストだとかが いいよねってことになったりして」(隅倉)
「ベタなカッコ良さみたいのを追求していきたいというのはありますね。ピンク・フロイドやクリムゾンのあの大袈裟な感じ、確かにいいですよね(笑)。特に 鈴木のドラムにはそういう良さがあると思います。ヘンにカッコ良くなり過ぎないというか」(西山)
「狙わないでやったらこうなった、というのはあるかな。僕らもみんな一度は音楽オタクだったわけですよ。でも、素の状態に戻ってきた時に、マニアックでは ないところにいたっていうか。まあ、個人的にはクリムゾンのあの暗さが自分のプレイに染み込んじゃってて、その内向的な暗さが消え去ってない時期ではある んですけどね、まだ(笑)」(鈴木)
 確かに、いわゆる良いセンスというのは時として鬱陶しい、けれど、それだけに支えられているのではつまらない。初恋の嵐というバンドの音楽にはそういう ささやかな、かつ鋭いメッセージがこめられている。"初恋の嵐"というバンド名も、"ベタなカッコ良さ"そのものかもしれない。「ジョン・サイモンやザ・ バンドをつきつめて聴きこんだこともあった」(隅倉)し、「マニアとして極端なところまで一度は行った」(鈴木)こともあったが、今は「Aikoや宇多田 ヒカルも好き」(西山)という域にまで辿りついた彼ら。ファースト・ミニアルバムの『バラードコレクション』(決してバラードだけではないのだが)は、そ ういう包容力のたっぷりあるアルバムだと言ってよいだろう。「マニアックなことを踏まえた上で、ポップでありたいというのはありますね。大きなことを言っ ちゃうと」(西山)
「スピッツの草野マサムネさんなんて、すごくマニアックだと思う。でも、スピッツはそれだけではないですよね。ああいうの、いいと思いますよ」(隅倉)
「奇をてらうようなのっていずれ飽きますからね。素のままでいれば絶対大丈夫なんですよ、きっと」(鈴木)

(TEXT:岡村詩野)

*原文ママ掲載


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