【GB 2001年8月号】

「すごく古いフォーマットでやってることも自覚してるし、だから、日記みたいなものですよ」

衝撃というには力がヌケていて、心地良さというにしては胸に染み込む。飾りげのない3ピースバン ドに潜むこの絶妙の触感は、音楽がフォーマットではないことを改めて感じさせてくれる。
初恋の嵐、実にリアルに音楽に取り組む彼らの、名もなきラブ・ソングがここに。

“恋の嵐”とはビートルズとも親交のあった70年代のロック・バンド、バッドフィンガーの名曲「No Matter What」の邦題なのだが、それが"初恋の嵐"となると、その単語を聞いただけで本当に心の嵐が巻き起こるのだから不思議だ。ボーカル/ギターの西山達 郎、ベースの隅倉弘至(本作から正式加入)、ドラムの鈴木正敏からなる3人組、初恋の嵐はこんなふうにほんの少し視点を変えただけであっさりと魔法を起こ してしまう。それは昨年末の本当にすばらしいデビュー・ミニ・アルバム『バラードコレクション』しかり、そして初のマキシシングルとなる本作 「Untitled」しかり。どうやら彼らの魔法は偶然の産物ではないようだ。
「『バラードコレクション』はアレンジが全然しっかりしてないのに聴けるのがスゴイなって思いますね。自信を持って、垂れ流してる感じがする。でも、俺が 入ってからは許さないぞ、と(笑)」(隅倉)
「余計なことを言わなくていいから。(笑)。でも、『バラードコレクション』は向こう見ずな、無敵な感じがするんですよね。今回の「Untitled」は それとはまた違った形でやってて、当然得るものもあるし、失うものもあるんだなって実感したんですけど、『バラードコレクション』を聴いて、また奮い立つ というか、負けてらんないなとは思います」(西山)
 前作はトリオ編成にもかかわらず、バンドの技量を白日のもとにさらすボーカルを含めた一発録音という大勝負に出た彼らだが、本作ではいわゆるスタジオ録 音を敢行。リアルタイムの緊張感や熱気が込められているという点においては前作が上回るのかと思いきや、今作はタイトル曲の紙がかったイントロからして圧 倒的なテンションが聴き手をしたたかに打ちのめす。
「ちゃんとストーリーができてるんですよね。隅(倉)くんのベースが最初に入って、そこで3人が流れに乗っていく。で、乗った瞬間に空気が変わるんですよ ね。そこが最高だと思います」(鈴木)
 ギター/ボーカル、ベース、ドラムという使い古されたはずのロックの基本フォーマットを踏襲しながらも、行き詰まりを感じさせずに、ここまで聴き手をつ かんで離さない秘密。彼らはそのことを間違いなく知っている。
「そりゃあ、僕らも限界を感じるときはありますよ。そういう部分でうわべだけをごまかすこともできると思うけど、そういう感じでやっていたらスタジオの空 気が悪くなるし、それよりも格好悪いままを出して、ここから精進していこうっていう自分を見せたほうがいいかなって。別に革命を起こそうとか思ってない し。すごく古いフォーマットでやってることも自覚してるし、だから、日記みたいなものですよ。ぶっちゃければ、『バラードコレクション』は好きな子がいて 上り調子のときに作った曲で、「Untitled」は下がっていく途中を捉えたもの。この詩はホント酷いと思う。(笑)だから、タイトルなんて付けてらん ねえなっていうことで「Untitled」なんです。(笑)もちろん、ザ・バーズの同名アルバムにも掛けてあるんですけどね」(西山)
 つまりはリアルであるか否か。彼らはそのことに身を削って取り組みつつ、シリアスになりすぎず、自らを笑い飛ばすユーモアさえも十分に心得ているのだ。
「それまで変にひねくれてみたり、渋かったりしたぶん、ラモーンズってこんなに格好良かったっけ?みたいな。(笑)現在進行形の初恋の嵐は本気で10代の 失われた青春を取り戻そうとしてますね」(西山)
 若さの何たるか、老成することの何たるかを知り、そのどちらもを弄ぶ懐の深さにこのバンドの大いなる可能性を見た。

(文:小野田 雄)

*原文ママ掲載


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