祝!徳永憲 音源作品リリース20周年!
幻のライブ音源が配信限定で2018年8月17日リリース決定!

1998年8月19日に1stミニアルバム「魂を救うだろう」でメジャーデビューした
シンガーソングライター徳永憲の、音源作品リリース20周年となる2018年、
過去の全作品が6月22日から主要なサブスクリプションおよびダウンロードサービスで配信スタートした。

それに続いて、徳永憲のキャリア初のライブアルバム「LIVE2000 赤い赤いマフラー」が
配信限定で8月17日にリリース決定。

このライブ音源は、2ndフルアルバム「眠りこんだ冬」のリリース時に行われた
東名阪ツアー、「徳永憲LIVE2000 赤い赤いマフラー」の
2000年11月29日に渋谷NEST(現在のTSUTAYA O-nest)にて行われた
ツアーファイナルのワンマンライブを記録用に収録していたマルチテープから、
徳永憲自らミックス、マスタリングした作品。
演奏メンバーは徳永憲(vo,g)、吉川真吾(b)、坂田学(ds)、徳永純(cho,per)で、
当日演奏されたアンコールを含む全演奏曲16曲が収録されている。

2018年8月17日(金)配信リリース
徳永憲 「LIVE2000 赤い赤いマフラー」

単曲販売税込 250円
バンドル販売税込 2,000円

徳永憲 「LIVE2000 赤い赤いマフラー」
2000.11.29 渋谷NESTにて収録

徳永憲(vo,g)
吉川真吾(b)
坂田学(ds)
徳永純(cho,per)
録音:土井章嗣
ミックス:徳永 憲

徳永憲
「LIVE2000 赤い赤いマフラー」
配信情報


SPECIAL LINER NOTES
当たり前の生活に潜む違和感の正体を暴く孤高の歌

「知る人ぞ知る」徳永憲のライブ音源が日の目を見ることとなった。2000年11月29日、セカンドアルバム『眠りこんだ冬』の東名阪リリースツアーのファイナル公演としてShibuya O-nestで行われたライブを収録したものだ。
 徳永憲は1998年のファーストミニアルバム『魂を救うだろう』で登場。憂いを帯びたメロディに乗せ、シニカルな棘、茶目っ気のあるブラックユーモアを交え、研ぎ澄ました言葉で日常に潜む違和感を「ただそこにある風景」として巧みに描写。それは違和感を暴き出す歌、といった方がいいだろうか。当たり前と日常や常識をグラっと揺るがすのだ。
 そこには苛立ち、諦めが色濃く漂う。そんなアンバランスで不穏な気配をはらみながら、それでも、心の奥底にそっとしまっておいた愛と慈しみがこぼれ出してくる。それだけが、最後に残っているものだとばかりに。そして、最後に残っていた大事なことを劇的に、鮮やかに聴かせてみせる。
 孤高の天才、異能の人、ミュージシャンズミュージシャン。徳永憲をそう呼ぶ人は、多い。

◎底なしの失望から響く美しくも棘のあるラブソング

このライブが行われた2000年は、幽玄フォーク色が強かったデビュー当初と比べて、躍動感のあるしなやかなポップネスをまとい出した頃だ。その傾向は1999年のミニアルバム『お先に失礼』から見受けられ、2000年の『眠りこんだ冬』に継がれている。

 ライブの模様を追っていこう。ステージはアルバムのタイトル曲「眠りこんだ冬」から始まる。坂田学のタイトなドラムが鳴り、徳永憲のざっくりとしたロックギターが絡む。「同じ方向へと向かう人たち」を乗せた冬の電車のなかで、車窓の風景を眺めながら「僕はきっと違う こいつらと違う」と多勢に寄り添わない態度を表明する。カントリー調の「気にしないで」では、自分を愛する女性へ優しい目線を向けながら、「これでも努力はしてるんだ 嘘だよ」と天の邪鬼に振る舞う。何故か。君のことがわからないからだ。「ラブソング・ナンバー1」では、皆のついた嘘はばれているけど、僕がついた嘘はばれていないと静かなファイティングポーズを見せる。
 この天の邪鬼なところと、攻撃性は徳永憲の大きな特徴の一つだ。

 グランジ調のざらついたサウンドの「テーマソング」、美しく憂う「雨が降り続いた」では「いつも君は僕に優しいね 清潔でセクシーだ」と。主人公が悶々とするなか、突如現れるセクシーという言葉にドキリとする。
 「なんだか迷惑だ」は流麗なギターのアルペジオとメロディが胸を締めつける。幸せなはずの君との暮らしで、君の愛に一生懸命に応えようとしながらも主人公はベーコンエッグの上に「君の痛みをふりかけてやろう」とつぶやく。そして普通の穏やかな生活への憧れを隠さない。でも、それは手の届かない憧れなのである。

 徳永憲の歌には、当たり前のこととされていることから、どうにもこぼれ落ちてしまう者の痛みがある。疎外感がある。一方で簡単にはなびかない、頑固な反骨がある。ため息をついたかと思えば、攻撃性がギラリと牙をむく。
 そして、周囲と折り合いをつけられぬなか、諦めや失望の底なし沼から響いてくるような言葉が、でも、愛情を失ったわけではない言葉が、美しくも棘のある言葉で綴られる。このバランスは徳永憲にしかないものだ。諦めたから愛がなくなるとか、愛があるから諦めないとか、そういうことではないのだろう。愛と諦めが最初から同居しているから、ままならず、もがくのだ。

◎でたらめでいい。気にすることはない

ステージは中盤に。ワイパーがよける雨水を眺めながら陰鬱とした気分を歌う「トンネル」から、ファーストアルバムのタイトル曲「アイヴィー」に。アイヴィー(ツタ)をモチーフに、健やかでしぶとい生命への憧憬が厳かに歌われる。「いつまでも生きていたい」では「じっとりと湿った薄暗い日々は僕らのもんだぜ」と覚悟を決め、「いつまでも生きていたい 太陽が爆発するところを見るんだ」と……。この荒ぶるフレーズに触れるとゴダールの映画『気狂いピエロ』の最後で主人公が爆死するシーンを思い出す……。
 「アイヴィー」と「いつまでも生きていたい」は、レパートリーのなかでも特にパーソナルな色合いが強い。まるで祈りを捧げているような歌だ。

 「メザセ! メザセ!」「夢の中じゃ」というロックナンバーを経てフィナーレへ。徳永憲の美学、譲れないものへのこだわりがセンチメンタルに炸裂する「オカエリ。ファンファーレ」に。主人公は「あいつがああならこうしよう」と変わらず周囲へ否の態度を示し、昨日も今日も0点をもらっては「明日はやるぞ」と帰り道で飛び跳ねる。最後は「オカ・エリロ・ボコン」と叫び、リフレイン。そう、あの愛すべきポンコツロボットの「ロボコン」だ。ある種の人の心には、周囲に理解されず「何でだろう?」と悩むロボコンの姿が、愛に溢れた不器用な正直者として、今も生きている。

 本編の最後は「マテリアル・イシュー」。徳永憲にとっての歌うことの意義が綴られる。諦めかけていても気にすることはない。近すぎてぼやける距離にハッピー状の悲しみがあるけど気にすることはない。だから僕らの歌はでたらめでいい。それで何かをつなぎとめるんだ……。主人公は最後に安物のギターの弦を切り、内股ジャンプをきめ、彼女の名前を叫び、その瞬間を完璧なものとして昇華させる。

 アンコールはエレキギター弾き語りの「S(スピード)」と「飛び出しナイフ」。バンドセットでの「エヴリー」。これらが映画のエンドロールのように響き、ライブは幕を閉じた。

 徳永憲の歌は痛く、つらい。ひとりの人間の混沌としたむき出しの魂に対面することとなる。身の回りの違和感を暴き出し、その正体をつきつける。目の前の生活の風景をグニャリと歪ませる。
 ただ、決して楽しく聴ける歌ではないのだが、不思議と力が湧いてくるのも事実。出口のない愛にこんがらがった人間であるなら、なおさらだ。何かが違う、と首をかしげている人は徳永憲の歌に触れてほしい。言い表せなくてもやもやしていたものが、腑に落ちる言葉で胸に収まるだろう。それだけでも、世界の見晴らしがよくなるはずだ。

文:山本貴政

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