【参加アーティスト】 1.2.音速ライン 3.4.goriofix 5.サカノボルト/関係ない [Music video] 6.サカノボルト/流れ者 [Music video] 7.8.暁 9.10.Used Knowledge 11.12.SPANK PAGE |
<レビュー> 1990年代後半、日本のロックシーンに何度目かの“カンブリア紀”が訪れた。ロックバンドという細胞が多種多様に爆発的な進化を見せ、シーンは百花繚乱の様相。そこで育まれた種は風に乗り、次世代に当たる2000年代前半に花を咲かせ、さまざまなバンドが生を謳歌した。そんな風潮のなか私小説的な物語をソリッドなバンドサウンドに乗せるギターロックシーンも活況を見せた。2003年頃、サカノボルトはそんなシーンに居心地の悪そうな顔でひっそりと現れた。 のちにソロユニット、フラバルスを名乗って活動する黒田晃太郎がフロントマンを務めたサカノボルト。彼らの初音源となる「関係ない」と「流れ者」は、MUSIC ON! TVが当時のインディーズバンドを選りすぐったコンピレーション盤『ディスカバリー vol.1』(2004年6月)に収録されている。 当時の彼らの代表曲「関係ない」は、緊張感がピンと張りつめたエモーショナルなラブソング。もどかしい日常を如何ともできない主人公は恋をする。そして「君には関係ないことさ」と言い放つ。文脈からすると、この“君”は恋の相手だろうが、同時に、自分の周囲にいるすべての人々に言っているようにも聞こえる。ここで聴かせる黒田の苛立ちは、無邪気なだけではいられない若者にとってリアルに響く。なお「関係ない」はこのコンピレーション盤でしか音源化されていない。(文:山本貴政) |
1st Maxi Single 『流れ者』 2004.9.22 Release R.Markovich DCCM-1005 |
【収録曲】 01.流れ者 [Music video] 02.流星群 03.251 04.ギター少年(live version) |
<レビュー> 渋谷、下北沢を中心としたライブハウスでの活動ペースを上げていたサカノボルトが2004年9月に発表したファーストシングル。心の機微と情景を丁寧にすくいとったリリカルな歌詞、ハイクオリティなメロディ、勢い一辺倒ではないバンドサウンドが大器の片鱗を感じさせた。 ギターロックが盛り上がるライブハウスシーンで、サカノボルトの4人は、特にバンドを率いる黒田晃太郎はどこか寄る辺なさそうな風情だった。キャッキャとした喧騒に対して居心地が悪そうにしていた。自信がありといった不敵な面構えながらも、それとは裏腹に自分がいるべき場所につながる細い糸を探しているようでもあった。 「流れ者」は時の経過とともにすれ違っていく君と僕の心模様を歌っている。タンタンとしたシンプルで美しい言葉と曲調が“あきらめ”を際立たせる。その情感は、当時の黒田に感じた寄る辺なさに通じる。ギターを持って歌を作ること、歌うことをモチーフにした繊細な「251」、爆烈系の「ギター少年」は、私小説というよりは、黒田が自らに当てた「私信」のようだ。純度の高い冬の冷たい空気のすがすがしさを点描画のように綴った「流星群」は、ギターロックというカテゴリーを超える黒田のソングライティングの才が聴くことができる。この1枚を持って、サカノボルトは耳聡い音楽好きの間でその名を広めていった。(文:山本貴政) |
1st Mini Album『関係ない』 2005.04.13Release R.Markovich record DCCM-10 |
【収録曲】 01.通り雨 02..ハイサイクル [Music video] 03.サイレント 04.野球 05.bed town 06.ギタア少年 [Music video] 07.冬スペクタクル |
<レビュー> 2005年4月リリースのファーストミニアルバム。代表曲「関係ない」をタイトルに冠するものの、その曲は収録されていない。そんなところにも彼らの一筋縄ではいかない気質が表れている。 全貌の見えにくかったサカノボルトのポテンシャルの高さ、黒田晃太郎の非凡なストーリーテラーの才、ソンライティングの高さが明らかになった本作だが、その冒頭の「通り雨」から言葉が歌が、ギターのフレーズが、バンドアンサンブルが生き物のように躍動する。雑踏のざわめきのなか、備えのない主人公は何を待っている。その情景が見事にサウンドから立ち上がってくる。まるで映画を観ているかのように。 サカノボルトが奏でる物語には特別なヒーローはいない。目が覚めるような活劇もない。やみくもに「行こうぜ!」と煽る言葉もない。我々はみんなちょっとした出来事に笑い、泣き、苛立ち、迷い、日々のやるせなさや憂いをぬぐいきれないでいる。それでもやっぱり明るい未来を求めて歩みを進めたいと思っている。幸せになりたいと思っている。そんなみんなの物語にサカノボルトは寄り添う。そして黒田は迷い、明確な答えを見つけ出せないる自らの姿を誤魔化そうともしない。だが、「ハイサイクル」でのトゥトゥトゥトゥという独り言のようなフレーズを聞いていると、少しだけ肩の力が抜けてくる。人生はこんなものだけど、これでいいのだ、とつぶやいてみたくなる。 本作で特筆したいのは3曲目に収録されている「野球」。主人公は野球選手が夢だった男。今、男はくだらない話で時間をつぶす日々を過ごす。テレビの向こうではエースが命をかけて戦っている。男はただ、それを見ている。残酷な人生のコントラストだ。ただ、黒田はその男を「それはそれでいいんで」と突き放すことはしない。そして続ける。「負け試合でも9回までピンチは続く」と。これこそ、それぞれの人生を生き、それぞれの居場所でなんとかまっとうしたいと願う市井の人々の物語ではないだろうか。たとえ負け試合を生きる身となっても、男は人生のマウンドからは降りられないのだ。打たれ強いエースナンバーだと笑われても。先程、サカノボルトの音楽を「まるで映画を観ているように」と書いたが、この「野球」は黒田のストーリーテリングの非凡さを証明している。 また、本作にはパッとしない気持ちを抱える人物が多く登場するが、「ギタア少年」に出てくる“かつての少年”は、そんなやるせなさを振り払うようにギターをかき鳴らし、叫ぶ。僕はオリジナル志向と矜持を見せる。 特別なことは何も起きないみんなの物語を幾重にも編み込んで濃密な群像劇へと展開させた本作の最後は、アコースティック調の「冬スペクタクル」が優しく締める。エンドロールのように。 ここに収められた7曲は黒田の独特のコード進行と予測を裏切るメロディ展開も高く評価された。サカノボルトは本作をもって活動休止。黒田はフラバルスと名乗り、次の一歩を踏み出すことになる。サカノボルトは2000年代前半の賑やかなライブハウスシーンに一時姿を現し、短い期間で姿を消した。だが、忘れられるバンドであってはならないと思っている。(文:山本貴政) |