【PROFILE】1998年ロックシティ福岡で結成。九州を中心に活動を行い、悲しさと激情感を併せもった唄声と、繊細かつ破壊力満点の圧倒的なライブパフォーマンスが話題を呼ぶ中、2002年に1stアルバム「悲しい耳鳴り」をリリース。 その後も彼らの代表曲となる「GRUNGY SISTER」をはじめ、ヒリヒリとする歌詞・楽曲を、硬質かつ濃密な演奏の8曲を収録。 「悲しい耳鳴り」の翌年にリリースの「POGO」は、タイトルトラック「POGO」の圧倒的な高揚感、そしてライブでは終盤に演奏されることが多かった、スリリングかつスピード感が魅力の「ギャップ」など、彼らがシーンでさらに注目を浴びるきっかけとなった3曲を収録したシングル。 ファニーな人間性が垣間見えるようなポップエッセンスや、本能の赴くままに吐き出される攻撃的なダンスビート、思いを素直に表現したリリックなど、喜怒哀楽を全て持つその音楽は多くのロックファンの熱狂的な支持を集めた。 その後レーベルを移籍、メンバーチェンジを経て活動しつつも、 惜しまれながら2009年9月に解散。活動に一旦終止符を打つも、 2016年12月4日 にオリジナルメンバーで再結成してライブを行った。 安部コウセイ VOCALS/GUITARS 伊東真一 GUITARS 安部光広 BASS 中山昭仁 DRUMS 【DISCOGRAPHY】1st Album『悲しい耳鳴り』 2002.4.3 Release Mule Records DCCM-6 ¥2,000(tax in) 主要ダウンロードサイト、サブスクリプションサービスにて配信
<レビュー> SPARTA LOCALSは歯をむき出しにして今にも飛びかからんとする飢えた狼のように、我々の前に姿を現した。怖いもの知らずの気性のせいなのか、体のなかに渦巻く怒りを抑えられないせいなのか、何もかもが気に入らないという空気をビリビリとまとっていた。目の前を通り過ぎるものに飛びかかって、噛みついて、噛みちぎって、次の獲物を探す……そんなスリリングで不穏な空気に満ちていた。気軽に近寄らせない、話しかけさせない空気に満ちていた。2000年代前半のフレンドリーなバンドシーンでは(東京ではなおさら)異質であり、違和感であった。 この『悲しい耳鳴り』は、彼らが地元・福岡に在中していた頃にレコーディングされた1stアルバム。冒頭の「パーフェクト・ソング」から、「剥き身のナイフをエレクトリック回線につないで演奏をしたらこんな音が出るのかな?」というようなジャキジャキで鋭角的なギターの音色が鳴り響く。その一方で「GRUNGY SISTER」に顕著なように、憂いに湿ったギターの音色に引き込み緊張感を孕んだ沈黙を誘う。そしてトリッキーでクセになるフレーズがツインギターをもって絡みあう様は、とても中毒性の高い快感がある。 リズム隊は土着的なグルーヴ……というか、地に這いつくばって暮らす民がハレの日の村祭りで、喜怒哀楽を爆破させているようなリズムで揺らす。力強く。「ええじゃないか」とばかりに。 そして、ボーカルをとる安部コウセイの圧倒的な存在感。怒気と拭えない悲しみ、やるせなさをたたえた緊張感のある歌声に息を飲む。もがきながら満足できないこの場所を抜け出そうとする性急さが胸を突く。 また、安部コウセイのつむぐ言葉は、全国の路地裏で、小さな部屋のなかで「このまま終わってたまるか」と牙を研ぐ若者たちの心情とつながるものだ。そのうえで、そこかしこに儚げなロマンチックな匂いが振りまかれているのもいい。そんなテンションで描かれる歌の物語は、すべての若者とは言わないが、確実に存在している“一部の若者”の物語と同じ地平にある。 安部コウセイの言葉を少し挙げてみる。月に照らされる町の色を前にしての「青春に似ている気がして、心が立ち眩む」「俺の頭にも 君の頭にも 完全な唄よ 流れ続けろ」(「パーフェクト・ソング」)、「涙ちょちょ切れ、喉が締まる 迎撃隊よ夜をえぐれ」(「夜の迎撃」)、「寂しさ 抱え 飛び込め レインボープール」(「レインボープール」)、「きらめいている 君と僕の空は ストレンジだ」(「GRUNGY SISTER」)、「10月の思い出を紙に書いて飛ばした 菜の花の真ん中で意味も無く叫んだ」(Oh! Good Life, No Good Life))、「小さな箱の中で 僕の頭の切れ目に生えてきたのは何」……。 “一部の若者”なら、耳にしただけで身悶えて叫び出し、バランスを崩してしまうような言葉が途切れることなく連なる。歌詞カードを眺めると8曲にわたり1行すら隙がない。1つのフレーズで、1枚の絵画が描けるのではと思うほどアンバランスな若者の心情をとらえている。そんなアンバランスさこそ、“一部の若者”青春期の悶えなのだ。 『悲しい耳鳴り』はこれらの要素が渾然一体となった、得も言われぬパワーがみなぎる会心作だ。当時のレーベル作成のプレスリリースを見ると、FUGAZI、television、Shellac、GANG OF FOURといった研ぎ澄まされたバンドの名が引き合いに出されている。確かに似ているところもあるが、やはり異質だ。SPARTA LOCALSの楽曲は、これらのバンドのヒリヒリした肌触りを地続きとしながら、“日本の若者の情緒”を弾けんばかりに加えたオンリーワンの叫びに昇華されている。 (文:山本貴政) 『POGO』 2003.4.2 Release Mule Records DCCM-1003 ¥1,050(tax in) 主要ダウンロードサイト、サブスクリプションサービスにて配信
<レビュー> SPARTA LOCALSの名は、1stアルバム『悲しい耳鳴り』のリリース後、評判が評判を呼び瞬く間に広まっていった。「ヤバい奴らがいる」と。その噂はリスナーにとどまらず、くるりのイベント『百鬼夜行』に参加するなど、アーティストの間でも広まっていった。そんなタイミングでリリースされた1stマキシシングル「POGO」で、彼らは只者ではないことを証明する急成長を見せた。 「POGO」に収録されたM1「POGO」、M2「ギャップ」では、彼らの持ち味であるスピード感、ライブでフロアを“極彩色の騒乱パーティー”に巻き込む野生的なダンスビート、渦を巻いて天に昇っていくような高揚感、不適で図太いポップカルチャー的センスが畳み掛けるように発揮される。同時に、恐ろしさとともにクスッとさせる飄々としたファニーさも顔を見せる。 そして、特筆すべきことは、転がるメロディとバンドアンサンブルに心地よくも不穏に乗る安部コウセイの語感センスが存分に冴え渡っている点だ。 オープニングの「POGO」では、「無言でタバコを進めるスマートな悪魔」「メリケンマッチ」「レールの真ん中にある猫の市街を連れ去る都会のシャドウ」「待ってくれないか」など、ドキリとするフレーズや情景描写の連続に頭を持っていかれる。 「ギャップ」でも、伸びきって音が狂ったテープを前につぶやかれる「どんな音楽なのかわからないのです」、エアガン2丁を見せびらかしながらの「この前あの黒い鳥、撃った」、「左眼は悲しく 右目は嬉しそう」「何でアンタ ここに居るの?」と言葉の切っ先は尖り続ける。 ただ、時空が歪み、頭がクラクラするような言葉の波だけでは終わらない。その先に、「大空を高く飛べる日を待っている(何も無いのに)」(「POGO」)と、眼差しを前に向けた言葉が高らかに宣言されるのだ。これは東京にやってきて、勝負体制が整った彼らの宣戦布告のように聞こえる。 このCDをセットして、「POGO」から「ギャップ」の流れを聴いて、彼らの底知れぬ才能にワクワクしたことを覚えている。『悲しい耳鳴り』のヒリヒリ感にもやられたが、『悲しい耳鳴り』が“陰”とすれば「POGO」に収められたナンバーはSPARTA LOCAL流の“陽”。もちろん秘めた苛立ちや悲しみは底流しているのだが、「ここではない違う地平にお前らも一緒に連れていってやる!」というフロントランナー的な気概も見え隠れするように感じた。 なお、3曲目の「オールドスクール」は独特の緊張感と奥行きのあるサウンドメイクが効いた美しいスローナンバーに仕上がっている。ここで聞こえる「湿った廊下に銀杏が一つ有る」というシュールな描写も秀逸だ。 SPARTA LOCALSはこの後、活動の場所をメジャーシーンに移し、彼らなりの陰陽を強烈なパワーで撒き散らしながらさらなる勇名を響かせていく。 (文:山本貴政) |