【PROFILE】1989年1月生まれ。15歳の頃から作曲を始め、大学進学後より本格的に音楽活動を開始。 ピアノの弾き語りやバンドスタイルなどで、都内を中心にライブ活動を 行い情感豊かなサウンドでリスナーを増やす。 2012年10月に初のスタジオレコーディング作品となる 「イン・ハー・ クローゼット」をリリースし、 2012年11月に東京のWWWにて初ワンマンライブを開催。 その後 SPEEDSTAR RECORDS に移籍し、 2013年6月に「instant fantasy」、2013年11月に「パラダイス」、 2014年2月に「YELLOW ORCHER」等の作品をリリースした後、 2014年9月に音楽活動を休止。 その後、2019年2月にリリースされた沖ちづるのデジタルシングル 「 baby i love you 」の作詞・作曲を手掛けた。 2023年11月活動再開を発表、約10年ぶりとなるシングル 「HOPE」をリリース。 [Homepage] [Interview] 『ANTENNA』2024.02.15 【DISCOGRAPHY】Digital Single『HOPE』2023.11.22 Release MOVING ON 主要ダウンロードサイト、サブスクリプションサービスにて配信
1st Album『イン・ハー・クローゼット』 2012.10.17 Release Mule Records 主要ダウンロードサイト、サブスクリプションサービスにて配信
<レビュー> 2012年にリリースされた、シンガー・ソングライター黒沼英之のファーストアルバム。初の音源発表といっても、15歳から曲を作り続けていたという彼にとって、23才で発表された今作はキャリアのスタートラインであると同時に、長きにわたって焦がれてきた一つの到達点だったのではないだろうか。そのせいかこのアルバムには、無邪気でどこか不安げな初々しさと、それとは反対にこなれて気後れのない凛々しさが混在している。 ヴォーカルにも詞曲にも飾り気がなく朴訥とした少年らしさを残したM-1、2012年当時、同世代のシンガー・ソングライター山根万理奈に提供し、ソングライターとしての実力を示したM-2、ネオソウル/シティポップが取り沙汰される'20年代に改めて聴くと示唆的にも感じるM-4、アイルランドのフォークシンガー、ダミアン・ライスの代表曲を日本語詞で新たに解釈したカヴァー曲のM-8など、いずれもリリースから10年経った今聴いてもタイムレスな輝きを放っている。 そして、ここにある曲は最初から最後までどれも“君と僕”の日常を歌うラブソングだ。まばたきしたら見落としてしまうくらい一瞬の出来事を繊細な手つきで拾い集めた8曲は、文系の空気を帯びた普遍的なラブソングとしてどっぷり楽しめる。ところが、ひとたび歌の世界に深く分け入っていくと、これらはすべてラブソングの形を借りた自画像のようでもある。 奔放なひと筆描きだったり、はたまた緻密なタッチで精巧に描かれたデッサンであったり、かたちは様々でも全部の矢印が自分に向かっているような、セルフポートレイト。長い時間をかけてあらゆる角度から自己の内面を見つめてきた、その内省や自意識の切実さは、てらいのないヴォーカルとシンプルでミニマムなサウンドプロダクションも手伝い、生々しく聴く者の胸を打つ。 この後メジャーデビューを挟み、抜群のメロディセンスと繊細な歌声でポップスシンガーとしての存在感を高めていくことになった黒沼英之の、原点であり到達点。当時からは想像も及ばない未曾有のパンデミックや戦争、SNSの誹謗中傷がもたらす分断と孤独を全世界が共有する今、リアルタイムとはまた別の感傷が心をとらえるだろう。 なお今作には、今や日本の音楽シーンを牽引するプロデューサー/ドラマーとして数々のアーティストの作品や、多数のCM・映画・ドラマ・アニメの音楽を手掛けるmabanuaがドラマーとして参加していることも、忘れず触れておきたい(M-3~M-5)。 (文:向島明子) |