2015年12月13 日 赤坂BLITZ ライブレポート 旅立ちを予感させる二十歳最初のワンマンライブ 2015年12月13日。二十歳を迎えたばかりの沖ちづるが「二十歳のあなたへ」と題されたワンマンライブを赤坂BLITZで行なった。 ただならぬ存在感を放つ声とストーリテリングの才を持つ“シンガーソングライターの新星”として登場した沖ちづるにとって、2015年はステッピングボードとなる特別な年だった。高校卒業後に本格的な弾き語り活動を始めた2014年を経て、2015年に入るとシングル「光」、ミニアルバム『景色』、フルアルバム『わたしのこえ』、ライブDVD『わたしのこえ』を立て続けにリリース。定期的にワンマンライブもこなしてきた。 この日のワンマンライブはそんな1年の集大成。さらには、13歳の沖ちづるが二十歳の沖ちづるに向かって書いた『二十歳のあなたへ』という手紙をタイトルにしたライブでもある。そこには「あなたは歌手になれていますか?」と綴られているという。つまり、声とギター1本で世界に飛び出した沖ちづるが“これまで”にひと区切りをつけ、新たな旅立ちに臨む瞬間でもあったのだ。 フロアの客電が落とされる。非常灯も消された暗がりのなか、沖ちづるが登場。真っ赤なワンピースのドレスを着て、フロア最前列に歩いてくる。向かって右側の頭上から1本のスポットライトが放射線状に沖ちづるを照らす。逆光に浮かび上がるシルエット。沖ちづるがフロアで立ったまま歌い出す。 ライブはタイトルにもなった「二十歳のあなたへ」で始まった。素直になれなれず、家族に当たり散らしてきた後悔、そんな自分を受け止めてくれた家族への感謝。そういったナイーブな心情が噛みしめるように綴られる。同時に「夢は覚えていますか」「やさしい大人になっていますか」と、今の自分を確かめ、諭すように綴られていく。 フロアに置かれた椅子に座り、沖ちづるは観客と同じ高さの目線でステージを進めていく。2曲目は「いとまごい」。今度は、真上から細い1本のスポットライトが光の柱のように沖ちづるの頭上に降りてくる。光と暗闇の狭間でゆらめくドレスの赤。ストイックなライティングが鮮やかなコントラストを生み、凛とした沖ちづるの世界観をより引きしめていく。 続いて、朝の木漏れ日のなか、自分だけの通り道を見つけた喜びにあふれる「朝の光」が行進曲のようにみずみずしく歌われる。そこから、2014年の自主制作盤のタイトル曲「はなれてごらん」。この先、辿りついた場所が素晴らしい景色ではなくても歌い続けていくんだという決意を表明した「景色」。“いつかあった(幻の)風景”を痛切なノスタルジーとともに描く「小さな丘」。女子校という年頃の女の子だけの世界を少しの皮肉を込めてコミカルに描写した「まいにち女の子」。夜ふけの帰り道の侘しさを情感たっぷりに描いた「街の灯かり」が次々に繰り出され、ピリッとした緊張感がフロアを包んでいく。 沖ちづるの世界観の特徴のひとつとして、ヒリヒリとした喪失感があげられる。ただ、例えばそこには“終わり/始まり”“失ったもの/得たもの”“闇/光”“寂寥感/ささやかな喜び”というように、“喪失感的なもの”と対になった“前に向かう情感”が常にある。つまり、終わりがなければ始まりがないように、明と暗は必ず対になっていて、どちらかだけでは存在しえない。その“対”を起点にしているから、沖ちづるの歌はあきらめを孕んだ不思議な生命力をたたえているのだろう。「街の灯かり」や、その次に歌われた新曲の「高架下の二人」はそんな明暗を見事にドラマチックな物語に仕立てあげ、背中を押してくれる曲になっている。 ライブはあっと言う間に終盤へ。つんのめるようなビートに字余りの歌詞を乗せ、速射砲のように言葉を弾けさせる新曲「メッセージ」で新境地をみせる。トーキングブルース調の勢いのある曲調からは、この1年で沖ちづるがアーティストとしてのタフさを増していることを理解させてくれた。ゾクッとさせるウィスパーヴォイスの効いた「きみのうた」を挟み、“変わり者の自分を認めていいんだ。だから歌っていくんだ”と沖ちづるに決意させた曲で、ずっと大切に歌い続けてきた「光」が披露される。いつかの自分を肯定したように、ひとつひとつの言葉を観客に語りかけていく。みんな自分を認めていいんだ、と……。柔らかな照明の光がほんのりと沖ちづるのまわりを照らしていき、やがて青いバックライトの逆光のなかに、沖ちづるのシルエットが消えていった。 ステージは最後の2曲に。この1年、ほぼすべてのライブを弾き語りで行なってきた沖ちづるが、バックメンバーを呼び込む。ステージにベース、ギター、ドラムの3人が登場。沖ちづるはこの日、初めてステージへとあがった。赤いドレスにトレンチコートを重ね、つばの広いハットをかぶっている。「旅人とその仲間たち」をイメージしたいでたちだと言う。 新曲の「旅立ち」が骨太なフォークロックサウンドに乗せて歌われる。とても勇敢でロマンチックなナンバーだ。安定した社会生活からあぶれても、自由を求めて放浪し続け、まるで旅をするように人生を戦う者たちのことを、1900年代初頭から半ばにかけてのカウンターカルチャーではホーボーと呼んだ。大切なものを奪われないように彼らは逸脱を続けた。では、大切なものとは? 大きくいうと、それは“真心”のようなものだと思う。「旅立ち」は、そんな屈しない者たちの魂に連なる現代のホーボーソングだった。この歌を堂々と歌う沖ちづるの顔はとても晴ればれとしていた。 大きな拍手のなか、ラストナンバーの「下北沢」をそのままバンドセットで歌いあげる。高校を卒業してからの多くの時間を過ごした街、下北沢の喧噪を生き生きと描いた群像劇をもって、この日のライブは幕を閉じた。この歌で沖ちづるは“何故、この街で自分は歌っているのか?”と、自分を登場人物のひとりとして見つめ、自問自答している。バンドセットでの「旅立ち」と「下北沢」を聴くと、沖ちづるは人生のクロスロードから、新たな旅路へと歩み始めたようだ。そんな感慨を抱かせてくれるメモリアルなライブだった。 なお、「旅立ち」はニューシングルとして2016年2月24日にリリースされる。初のバンドアレンジでレコーディングされた曲になるという。カップリングは「二十歳のあなたへ」。新世代のニューアンセムの登場を予感させる、このシングルも楽しみに待ちたい。 DECEMBER’S CHILDREN <昼の部> 沖ちづるワンマンライブ「二十歳のあなたへ」 01. 二十歳のあなたへ 02. いとまごい 03. 朝の光 04. はなれてごらん 05. 景色 06. 小さな丘 07. まいにち女の子 08. 街の灯かり 09. 高架下の二人 10. メッセージ 11. きみのうた 12. 光 13. 旅立ち 14. 下北沢 ◎文 山本貴政 ◎撮影 河本悠貴 [SPECIALページに戻る] [むこうみずレコード TOPページに戻る] Copyright (C) MOVING ON,INC. All Rights Reserved.
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