2016年10月21日六本木VARIT.ライブレポート 沖ちづるがツーマンライブで聴かせたスリリングなデュエット 10月21日、「SONGS OF YESTERDAY」と冠されたイベントで注目の女性シンガーソングライター2人のツーマンライブが実現した。 存在感抜群の歌声を持つ2人が登場したこの夜は、お互いの持ち味を堪能できるステージが繰り広げられた。ここでは沖ちづるのステージと、2人がデュエットで荒井由実の名曲カバーを披露したアンコールの模様をレポートしよう。 ◎沖ちづる 〜夢を追うことの決意と痛み〜 フロアは満員。沖ちづるが登場。少し伸びた黒髪をおろし、白いドット(水玉)模様が入った黒いミニのワンピースをまとっている。ハーモニカーホルダーをセットし、静かにひと息つく。フロアはピンとした緊張感に包まれていく。 ステージは「旅立ち」でスタート。孤独のなか“歌い手として生きていく”という夢を抱いた自分の歩みになぞらえながら、夢を追い続け、旅を続ける人々の心を後押しするドラマチックなナンバーだ。続いては一転、朝の新鮮な空気、森の木々の爽やかさが匂いたつ「朝の光」。牧歌的で優しいメロディラインを奏で、きフロアの空気を和ませる。 挨拶代わりの2曲の後は、短いMCを挟み「クラスメイト」へ。“僕と君はただのクラスメイト。みんな大人になったよ”と、絶妙にリアルな距離感で、亡くなった中学時代の級友に語りかける。 沖ちづるは若干二十歳。「クラスメイト」は、二十歳の若者たちが経験した数年の時の流れを描いたものだ。しかし、わずか数年のなかに、大きな人生の流れを感じさせ、それぞれの行く末(人生の終わり)までイメージさせる。沖ちづるの物語力が生きた名曲だ。 身近な人々、街の風景、景色を巧みに物語にしてく沖ちづるの持ち味が生きた群像劇「下北沢」。沖ちづるも出演する映画『くも漫』(2017年1月全国公開予定)の主題歌「誰も知らない」が立て続けに歌われる。 会場は南壽あさ子のファンも多かったが、沖ちづるは叙情に満ちた表現力でじわじわと歌の世界観に観客を引き込み、会場の拍手はだんだん大きなものとなっていった。 この夜の沖ちづるは、時に楽曲のテンポをやや落としながら、魔法がかった吸引力を持つ声をもって、観客ひとりひとりに語りかけるように歌っていた。また、凛とした佇まいと裏腹の、どこかもがいているような不器用な荒々しさも印象的だった。 “僕”“友人”“父親”という3人の登場人物を軸に、夢を追うことの痛みと決意を歌った「僕は今」、13歳の頃の沖ちづるが二十歳の自分に向けて綴った手紙をモチーフにした「二十歳のあなたへ」をもって、ステージは幕を閉じた。 沖ちづるはひとり芝居と歌からなる「歌語り」というスタイルのステージに挑戦をしているが、二十歳最後の夜にあたる11月25日に「歌語り」の再演として、「二十歳のあなたへ 二十歳と365日」が行うことが、この夜、発表された。 ◎アンコール 〜“選ばれた歌声”のデュエット〜 歌声だけでなく、存在感そのものが透明感をまとっている南壽あさ子のステージが終わり。アンコールへ。才能あふれる2人の歌声をさらに求める観客による大きな手拍子のなか、まずは南壽あさ子がステージへ。「星のもぐる海」で観客の期待に応えた。 南壽あさ子が沖ちづるを呼び込む。少しの間を置いて、アコースティックギターを抱えた沖ちづるが再び登場。2人が出会ったときのエピソードを語る。 2人がデュエットしたのは荒井由実(ユーミン)の「翳りゆく部屋」。沖ちづるがいくつか候補曲を挙げ、南壽あさ子がそこから決めたのが「翳りゆく部屋」だった。 南壽あさ子が弾くピアノのイントロに乗せて、沖ちづるが歌い始める。今晩のツーマンライブは沖ちづるにとって念願だったというが、このデュエットにはお約束的な和やかムードは薄く、2人の挟持がぶつかり合う、聴きどころのあるものとなった。時にはこういう真剣なアンコールもいい。そう感じた。 ハスキーでウィスパーな沖ちづるの歌声と、伸びやかで清涼感いっぱいの南壽あさ子の歌声。タイプは違えども、ともに“選ばれし声”の持ち主だ。 際立った存在感のある2人が交互にパートを歌い合う様には、緊張感に満ち、スリリング。歌い終えた2人は静かに笑みを浮かべた。2人のツーマンライブの締めくくりにふさわしい凛としたデュエットだった。 ■セットリスト SONGS OF YESTERDAY 01. 旅立ち 02. 朝の光 03. クラスメイト 04. 下北沢 05. 誰も知らない 06. 僕は今 07. 二十歳のあなたへ アンコール 翳りゆく部屋(南壽あさ子/沖ちづる、カバー) 文/山本貴政 写真/木村泰之 [SPECIALページに戻る] [むこうみずレコード TOPページに戻る] Copyright (C) MOVING ON,INC. All Rights Reserved.
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