2016年2016年11月25日六本木Varit. ライブレポート 1時間45分。 沖ちづるが二十歳最後の夜に演じた「歌物語」 ◎Introduction 〜二十歳最後の夜に現れた十三歳〜 11月25日。沖ちづるが二十歳最後の夜に『沖ちづる 歌語り“二十歳のあなたへ -20才と364日-”』を開催した。「歌語り」とは沖ちづるのひとり芝居と歌を融合させた舞台。この夜は、7月以来、2度目の「歌語り」となった。 この「歌語り」は十三歳の沖ちづるが二十歳の自分に向けて綴った手紙から生まれた歌「二十歳のあなたへ」がモチーフとなった劇だ。 周囲との折り合いをうまくつけられず、その苛立ちを家族にぶつけていた十三歳の沖ちづるは、自己嫌悪にまみれていた。「うまくできない」のは家族のせいではない。本当は「ありがとう」「ごめんなさい」と素直に言いたかった。 十三歳の沖ちづるはペンを執り、二十歳の自分に手紙を宛てる。そこには歌手になりたい、という夢が綴られていた。親孝行はできていますか、優しい大人になれていますか。夢は覚えていますか。そんな言葉とともに……。 この夜、沖ちづるは十三歳から二十歳最後の夜までの8年間の道のりを、自ら演じてみせた。 ◎第一幕 〜二十歳、まだうまくできない〜 「本日は私の二十歳のライブ『沖ちづる 20才と364日』にお越しくださり、皆さん、本当にありがとうございました。本当にありがとうございました……。次が最後の曲です」 二十歳最後の夜のライブ。真っ赤な衣装を着た沖ちづるはどこか居心地が悪そうだ。最後の曲「二十歳のあなたへ」を歌い終える。楽屋でため息をつく沖ちづる。歌手になるという夢は叶えたものの、この夜も「あの頃」と変わらず「うまくできない自分」にこんがらがったまま。 アンコールの呼び出しがかかる……。 ◎第二幕 〜初めて「何かができた夜」〜 十三歳の沖ちづるが姉と共用する子ども部屋にいる。床にはギター。教科書、ギターの教則本、ノートとペン。ヒステリックな金切り声を上げている。何もかもが不満な日々。ひとしきり泣いたある夜、沖ちづるは「二十歳のあなたへ」という言葉から始まる手紙を綴り、ノートにそっと忍ばせた。 沖ちづるはギターを手に取る。教則本を片手に「C」のコードをうまく押さえられてははしゃぎ、「F」のコードでつまずいては気落ちする。 「できない」と「できる」の狭間で沸き上がる「でも、やりたい/やるんだ」という思い。自分の気持ちを託せる何かが生まれようとしていた。 初めてできた歌は「いとまごい」。照れくさそうに、誇らしそうに、電話越しに歌ってきかせると、友達は泣いていた……。 ◎第三幕 〜眠れぬ夜に流れるメロディ〜 沖ちづるは中学二年で軽音楽部に入部し、バンドを組んだ。バンドは沖ちづるが書いたオリジナルの曲を演奏するようになる。 軽音楽部の顧問からは「歌が暗い」と言われる。「変わった子」といじめられることもある。でも、高校時代にライブハウスに出演し始めたことで知らない世界に触れ、ドキドキもしていた。 高校を卒業すると、沖ちづるは毎日のように弾き語りでステージに立った。やがてレコードレーベルと出会う。自分のCDがレコードショップの店頭に並んだ。家族が喜んでくれた。久しぶりの友達から連絡がきた。大きなステージにも立った。テレビにも出た。大学を辞めた。アルバイトも辞めた。 「何もうまくできない」と苦悩してきた自分を周囲がキラキラした目で見ている。みんなの輪の中心にいるのだ。「私にもできる」。そんな手応えをつかんだ、ように思えた。 だが、きらめく日々は長くは続かない。 現実は二十歳の沖ちづるを押し潰す。CDが売れない。ライブの動員が増えない。海外旅行ではしゃぐ友人たちの姿に嫉妬が募る(自分への誘いはなかった)。またもや自己嫌悪にさいなまれる日々がやってきた。 眠れない夜、沖ちづるは「いとまごい」を口ずさむ。こんな夜に、きまって頭に流れるのは「初めてできた」曲のフレーズだった……。 ◎第四幕 〜それでも僕らは夢を追う〜 二十歳最後の夜のライブ。アンコール。沖ちづるは、自分を育てるために夢を捨てた父、夢がないという友達の思いも抱えて「それでも僕らは夢を追う」と歌った。この歌のタイトルは「僕は今」。 楽屋の椅子に腰をかける沖ちづる。自分の現在地は? 夢の現在地は? 私は今……。 この夜の「歌語り」は1時間45分をかけて演じられ、深い余韻を残して幕を閉じた。沖ちづるは二十歳という1年を費やして、最後に歌った「僕は今」を仕上げたとも、「歌語り」はこれからも行われるとも聞いている。 その時々で、「できる/できない」の日々はどんな物語へと姿を変えていくのだろうか。また足を運びたい。 文=山本貴政 写真=SUSIE 『沖ちづる 歌語り“二十歳のあなたへ -20才と364日-”』 2016年11月25日六本木Varit. 【第一部】 01.二十歳のあなたへ 【第二部】 02. いとまごい 【第三部】 03. きみのうた 04. はなれてごらん 05. まいにち女の子 06. 下北沢 07. 景色 08. blue light 09. 光 10 誰も知らない 11. 向こう側 【第四部】 12. 僕は今 [SPECIALページに戻る] [むこうみずレコード TOPページに戻る] Copyright (C) MOVING ON,INC. All Rights Reserved.
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