2017年4月28日 六本木Varit. ライブレポート 2nd Mini Album「僕は今」リリースワンマンライブ『21歳な日々』 バンドマジックで生まれ変わる沖ちづるの世界 4月28日、沖ちづるが2ndミニアルバム『僕は今』のリリースワンマンライブ『21歳な日々』を六本木Varit.で開催した。この夜は、2015年12月の赤坂ブリッツ・ワンマンライブ以来となるバンドセットでの演奏があると、事前に発表されていた。 ちょうど1カ月前には「僕は今」のバンドバージョンのミュージックビデオも公開。バンドセットへの興味が膨らむなか、ステージは始まった。 ◎夢を追うことのシリアスさを振り払う 普段の沖ちづるは弾き語りということもあって、フロアには椅子が並べられていることがほとんどだ。しかし、この夜はスタンディング形式。ステージには、中央のアコースティックギターとスタンドマイクの周囲をギター、ベース、ドラムが囲んでいる。 開演前、いつもは独特の緊張感が張り詰めている。しかし、今回はざわざわとした落ち着かない空気が漂っていた。何かが始まりそうな予感、にざわめいているように。 白いブラウス、黒いパンツ、ヒールの高い靴というシックなスタイルで沖ちづるが登場。静かにふっとひと息吐き、「僕は今」を弾き語りで歌い始める。最新ミニアルバムのタイトルナンバーでもあるこの曲では、夢を追う人生の痛みと孤独、それでも夢を引き受けるんだという覚悟と誇りが歌われる。自分を育てる夢を捨てた父と、夢がないと嘆く友の人生を対比させながら。 そっとアコースティックギターのボディを叩いてカウントを取る沖ちづる。夢を追う先に見える景色は美しいとは限らない。それでも進むんだと歌う「景色」が続く。ワンツースリー。小さくささやき新曲の「それがどうした」へ。この曲は沖ちづるのオフィシャルコンテンツサイト「オキテン」、大阪・ポテトキッドでのライブで披露されていたが、東京では初披露だ。 カントリーテイストのフォークロックに乗せ、サビでは「それがどうした」とリフレイン。「僕は今」と「景色」に見える夢にまつわるシリアスな事実を振り払うように歌う。「どうにでもなれ! やってみせるさ」とでも言いたげなやぶれかぶれ感、というかロック的なファイティグポーズにニヤリとさせられた。 この3曲を一気に歌いきり、短いMC。沖本人も出演した映画『くも漫。』の主題歌「誰も知らない」、中学時代になくなった旧友へ「僕ら大人になったよ」と語りかける「クラスメイト」、十三歳の沖ちづるが二十歳の自分に向けた手紙をモチーフにした「二十歳のあなたへ」へと。間をしっかりと取り、豊かな物語性を天性の声で表現していく。 ここまでの曲にも顕著だが、沖ちづるの物語では、さよならの情感、過ぎゆくものや失ったものへの惜別の情が、気高きロマンとともに描かれている。これは沖ちづるの十八番であり、ワンアンドオンリーの武器といっていい。 ミニアルバム『僕は今』で聴ける5曲は、二十歳から二十一歳へかけての1年間で、じっくりと時間がかけて作られたという。ときには「私は何者なのだろう。それもわからないのに歌ってもいいのか?」という悩みのなかで生み出した曲だという。そんな心情をMCで語り、弾き語り編は「向こう側」「うつろいゆく者たちへ」で終わった。 ◎バンドサウンドで生まれ変わった沖ちづるの世界 そして、バンドセットでの演奏が始まる。沖ちづるがどこか照れくさそうにメンバーを呼び込む。この夜、沖ちづるを支えるのは伊東真一(G.)、安部光広(B.)、菱谷昌弘(Dr.)の3人。メタリックなダンスチューンで異彩を放つロックバンド・HINTOの面々だ。「僕は今」のバンドバージョンもこの顔ぶれで録音されている。 フォークロックmeetsオルタナティブロックといったテイストで「旅立ち」が始まった。人生という旅を続ける夢追い人を鼓舞する曲だ。古のホーボーソングのようなカウンターカルチャーのスピリットも秘めた曲だが、小気味よくロールするドラムに乗せて、「沖ちづる版マーチングソング」のような強さで響き渡った。 沖ちづるがアコースティックギターを置き、ハーモニカホルダーをセット。ハーモニカをひと吹きして、頭上でハンドクラップ。ロックシンガー然とした新鮮な姿を見せる。静かなフォークソング「メッセージ」が、フリーキー&エッジーなギターがリードする4つ打ちのダンスロックに生まれ変わった。この手のサウンドはHINTOの得意とするところ。沖ちづる&HINTOならではの醍醐味を見せてくれた。 圧巻だったのは沖ちづるが白いストラトキャスターを手にして演奏された「タイガーリリー」。寂しさを隠した頑張りやさんの心情を綴ったきれいな曲が、轟音パワーポップに。ノイジーなツインギターの音色がフロアを塗りつぶしていく。もともとある「強さ」の部分が強調され、アッパーな勢いを生んでいた。 パンパンの熱量を込めたバンド編は叩いかけるように続いていく。 いつか終わるから嘆くこともない。いつか失うから辞めることもない。「街の灯かり」に漂うそんな無常観は、浮遊感のあるギターの音色で増幅。高校卒業後の沖ちづるがライブなどで毎日のように訪れていた下北沢の喧騒を描いた群像劇「下北沢」は、王道のフォークロックのアンサンブルで演奏された。 バンド編は、ハンドマイクで沖ちづるが歌った「僕は今」のバンドバージョンで終了。曲の終わり、ステージの前に歩み出た沖ちづるは、「それでも僕らは夢を歌う」と泣き叫ぶように歌っていた。 ◎始まりのフィーリング 簡素な照明に照らされて、楽器を置くメンバー。晴れやかな顔の沖ちづる。舞台を去っていく姿は、どこか青春映画のひとコマのようだった。やりとげた、ではなく、始まった。そんな始まりのフィーリングがあった。 この夜、これまでの弾き語りで見せてきた「ひとりだけの情感」に、「ひとりでは起きない魔法」がかかりかけているように聴こえた。 これからは、弾き語りと並行してバンドバージョンのライブも行っていくという。 昨年はひとり芝居と歌を融合させた「歌物語」というスタイルに挑戦。うちなる世界観をひとりきりで表現することを追求した。そして、沖ちづるにとって大きな節目だった二十歳という1年に決着をつけた。 今年は「バンドサウンド」にも挑戦する。バンドサウンドは踏んだ場数の分だけ、固まっていく。生き物のようにうねりだしたバンドサウンドのなか、沖ちづるはどんな歌を聴かせてくれるのか。新しい歌の表情を楽しみにしたい。 文=山本貴政 写真=umihayato ■セットリスト 2nd Mini Album「僕は今」リリースワンマンライブ 『21歳な日々』 01. 僕は今 02. 景色 03. それがどうした 04. 誰も知らない 05. クラスメイト 06. 二十歳のあなたへ 07. 向こう側 08. うつろいゆく者たちへ 09. 旅立ち 10. メッセージ 11. タイガーリリー 12. 街の灯かり 13. 下北沢 14. 僕は今(band ver.) [SPECIALページに戻る] [むこうみずレコード TOPページに戻る] Copyright (C) MOVING ON,INC. All Rights Reserved.
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