沖ちづる



2017年11月24日ライブレポート
Zher the ZOO YOYOGI
THE SOFT PARADE


05-1


個性が噛み合ったバンドサウンド。
別の顔を見せ出した沖ちづるの物語


 2017年11月24日、Zher the ZOO YOYOGIで開催されたイベント『THE SOFT PARADE』に沖ちづるが出演した。2016年にひとり芝居による演劇と弾き語りを融合させた「歌語り」で表現の幅を広げ、2017年は弾き語りと平行してバンドセットでのライブを行ってきたが、この夜は今年最後のバンドセットでの演奏となった。

 沖ちづるがひとりでステージに現れる。ブロックチェック柄の裾の長いグレーのシャツをまとい、黒レザーのミニスカート、黒のハイソックスにブーツ。伸びた髪にはウェーブがかかっている。そんな「おっ」という出で立ちで、静かにアコースティックギターを手に「恋の秋」を歌い出す。9月のライブで披露されたこの新曲は、ひとりぼっちのあの子をモチーフに、「恋をしなければ」と急く心模様が描かれている。

 曲が中盤に差し掛かったところで、暗がりの中、3人のバンドメンバーが登場。玉川裕高(G.)、安部光広(B. HINTO、SPARTA LOCALS)、鈴木正敏(Dr. 初恋の嵐)。沖ちづるのバンドセットでおなじみのメンバーだ。3人の演奏が加わって、一気にテンポアップ。「恋の秋」が性急に転がっていく。そのまま、間を置かずに「旅立ち」へ。この歌は沖ちづる版ホーボーソングともいえるもの。世に抗いながらも、信じた道を旅し続ける者たちを鼓舞するメッセージが、スケールの大きな王道のフォークロックサウンドに乗せて繰り出される。
 続いては「朝の光」。森の朝に差し込む陽光、澄んだ空気、草木の雫……。そんな瑞々しい息吹を感じさせる可愛らしい小品なのだが、玉川裕高がツボを押さえたギターの音色で、森の朝の情景を絵画のように巧みに描いていく。ミドルテンポで弾き語られることが多い「メッセージ」では、つんのめるようなビートと一体になって、速射砲のように言葉が放たれていく。そのまま転がる石のように、「それがどうした」がハイテンポなカントリーパンク風に演じられる。

 ここまで聴き進めるうちに、沖ちづるという強烈な個性が、これまたワンアンドオンリーなメンバーと組むことで、あらたな顔を見せ始めていることがわかってきた。「個性×個性」が弾き合うことなく、「強さ×強さ」がすっと相容れている。

 ステージは終盤へ。沖ちづるが白いテレキャスターを手にする。「タイガーリリー」がラウドなパワーポップに生まれ変わった。寂しさを押し隠した覚悟と勇敢な乙女心にキュンとくる「タイガーリリー」のほろ苦くも甘酸っぱい情感は、パワーポップ独特のペパーミントフレーバーによく似合う。情念的なフォークソング「負けました」を挟み、街の群像劇を描いた「下北沢」が2曲目の「旅立ち」同様に骨太なフォークロックサウンドで迫ってくる。

 フィナーレは「僕は今」。夢を追うためには避けられない痛みを、父親や友人のエピソードも交えて綴るこの歌の物語性が、そこにある景色が、まるで映画でも見ているように浮かび上がってくる。「それでも僕らは夢を歌う」というエンディングのフレーズが強く響く。バンドサウンドを得たことで、沖ちづるの極めてパーソナルな「私の物語」が「私たちの物語」に転化してくように感じた。

 もちろん沖ちづるの強烈な個性のみで構成される弾き語りもよいのだが、バンドセットならではの魔法もしっかりとかかっていた。エッジとふくよかさを兼ねた経験豊富なメンバーとのバンドサウンドは固まりつつあるようだ。

 バンドセットで演奏するということは、極私的な心情をメンバーに委ねるということでもある。その相乗効果がどのように現れていくのか。楽しみに追っていきたい。

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写真=酒井麻衣
文=山本貴政

■セットリスト
2017年11月24日
Zher the ZOO YOYOGI
THE SOFT PARADE
01. 恋の秋
02. 旅立ち
03. 朝の光
04. メッセージ
05. それがどうした
06. タイガーリリー
07. 負けました
08. 下北沢
09. 僕は今


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