3rd Single 「負けました」インタビュー 「落ち込んでいる人がいるのなら、そこに向けて歌いたい」 シンガーソングライター沖ちづるが3月21日、3rdシングル「負けました」をリリースする。2017年2月リリースのミニアルバム『僕は今』に続くCD作品で、通算3枚目の全国流通シングルとなる。 タイトル曲の「負けました」はシンプルな言葉とメロディを繰り返し、最後には前向きな気持ちになるという非常に印象的な曲に仕上がった。 カップリングの2曲も、ファンに人気の高い楽曲「街の灯かり」をピアノ独唱で生まれ変わらせた「街の灯かり(春)」。あざやかな夏の風景が描かれるフォーク調佳曲「夏の嵐」と充実している。 約1年ぶりとなるCD発売。この一年は自分と歌、そしてリスナーとの距離を見つめ直してきた。「落ち込んでいる人がいるのなら、そこに向けて歌いたい」そう語った彼女の内面に迫った。 >>「負けました」というなかなか強い言葉のタイトル曲ですが、どんな経緯でこの曲ができたのですか。 沖:曲が出来た初めのキッカケみたいなものは、去年の夏、藤井聡太六段(当時、四段)の連勝記録が止まってしまった時のニュースの見出しで「藤井四段、負けました」とあった事です。勝負事の世界に生きている人たちのすごくシビアで逃げ場のない世界で戦っている姿を見て、憧れというか「かっこいいな」と感じました。 >>戦う姿にですか? 沖:自分は音楽活動をやりながらも「勝ち負け」みたいなものをハッキリとつけるようなタイプでは元々なくて。ただ、やっぱりスポーツ選手や勝負の世界の人たちの姿を見ると、素直に「頑張りたいな」と勇気づけられるんですね。 この曲も作り始めは自分への応援歌の要素が強かったんです。 でも、この曲が今までの楽曲と違うのは単に「私の出来事」として歌うのではなくて、誰もが生活をしてゆくうえで感じる「想像していた自分」と「現実の自分」とのギャップを埋める「みんなの歌」として届くように。そのあたりはすごく意識しました。 >>「負けました」と歌う事って勇気がいると思ったのですが。 沖:単に「負けた自分」を責めるという歌ではないので、それに関しては素直に歌えました。 この曲のテーマを描けば描くほど、「自分の歌になってゆく」という気持ちが根底にはありました。 >>去年の11月に弾き語りスタイルの「負けました(naked ver.)」のMVが公式チャンネルで先に発表されて、今度のシングルではバンドスタイルでの音源です。印象的なピアノのイントロからゆるやかに上に登ってゆくようなアレンジとなり、少し歌の表情が変わった気がするのですが。 沖:弾き語りの時は自分の心情がそばにあって、それを語りかけるような気持ちで歌っているんですけど、バンドで録り始めて音が重なり形になってゆくうちに、タイトルに反して、思っていた以上に「光に満ちた曲」になったと言うか、すごくみずみずしさのようなものが作れたな、と思っています。 バンドの音を重ねてゆくうちに曲自体の存在が大きなものになっていって、すごく穏やかな気持ちで歌えました。 >>レコーディングメンバーはどういった方々なのですか? 沖:ベースの隅倉(弘至)さんは「初恋の嵐」のメンバーで、私の赤坂BLITZでのワンマンライブの時にもサポート演奏をしていただきました。 ギターはシンプルで、だけども感情を揺さぶられるような音が欲しくて、「初恋の嵐」のライブでお会いしたことのあるヒックスヴィルの木暮晋也さんにお願いしました。ドラムの神谷(洵平)さんは不思議な縁です。私が学生の頃に遊びでバンドを組んで下北沢のライブハウスに出た時に、共演した女性シンガーのサポートをやっていて知り合いになり、その時に「機会があったら是非!」という言葉をもらって、今回スケジュールを調整していただきました。まずは3人の皆さんでサウンドの土台を作ってもらい、その上に以前の「誰も知らない」のレコーディングでも鍵盤を弾いていただいた、岸田(勇気)さんのピアノを重ねるというやり方でした。 みなさん、私の思い描いてるサウンドをすぐに理解してくれて、勝手に信頼関係を感じてましたね(笑)。 >>「負けました(naked ver.)」のMVは黙々とバスケットボールのシュート練習を繰り返す沖さんの姿がすごく印象的でした。自分の歌で誰かの心を射抜きたい、という意思みたいなものを感じたのですが。 沖:そこまで感じてくれたのですか(笑) この「負けました」って曲が出来た時に、今となっては笑い話かも知れないですが、色々と過去の「ああ、この日は負けたなあ」と思った出来事を思い出して、そのうちのひとつに自分の学生時代のバスケの部活動の事が印象に残っていて。 すごく下手だったんですよ、部員の中で(笑)後輩からもどんどん抜かされるっていう立場で。試合に出てるのは同級生と後輩たちで。でも、その時も試合に出て頑張っている友達の姿を見ながら「悔しい。どうにかしてやりたい。」って気持ちはなくて、どこかあきらめていたと思うんですよね。「自分は応援する立場なんだ」って。 そんな自分の姿をコーチたちが見ててくれて、最後の引退試合でコートに出る事ができて。でもやっぱり想像以上に思ったようには動けなくて、すぐにまたベンチに戻されて。最後の試合も結局、応援する立場になって。 その時のうまく動けなかった気持ちとか、帰り道に一人で「本当に何も出来ないで終わっちゃったなあ」って思った事とか、今でも割と鮮明に覚えていて。 でもそれって学生時代とかの誰もが共通するエピソードなのかなって思ったりして。 >>どうやったら自分の歌が共感してもらえるのだろう、という気持ちがますます強くなっているようにも感じました。 沖:今までの、自分が中心にいてそこから歌を作ってゆくというやり方だとキツかったというのはあります。「負けました」のリリースまでの1年間っていうのは「どうゆう歌が自分にとって良いんだろう」という気持ちがあって、この曲のテーマと曲が浮かんだ時にすごくシンプルな言葉で作ることが出来たので、自分の中で気持ちの整理が出来た感じです。 負けた人にスポットライトを当てている曲ではあるんですけど、単純に「負けても大丈夫だよ」って曲にはしたくないっていうか、出来ないっていうか。落ち込んだ時は陽に当たりたくない時もあると思うので。 >>次は2曲目の「街の灯かり(春)」について聞かせてください。この曲は1st Mini Album 「景色」に収録されている曲のリテイクです。この曲をアコースティックギターからピアノアレンジにしようと思った経緯を教えてください。 沖:このシングルを作ることになった時に、それぞれ曲のアレンジは違うけれど同じ空気感を持った楽曲の集まりにしたくて、この曲を選びました。 前回のレコーディングは十代の終わりの時のもので、その時に比べて今の歌声も違うし、アレンジにしても全く別のものにしたくて。ピアノだけで歌を重ねるのは初めての試みでしたけど、やってみたらすごく優しさが音に出ていて、自分でも気持ち良い曲になったと思ってます。 >>この曲って「終わってゆくこと」と「続いてゆくこと」が背中あわせになっている感じがすごく伝わってくるのですが、沖さんがこだわっている言葉の選び方はありますか? 沖:まずは感覚的な部分だと思うんです。その中でしっくりとくる言葉を選びます。 「街の灯かり(春)」は他の2曲と違って十代の頃の曲で、多分、その頃の自分はすごく感覚的に詩を書いていたと思うんですけど、今の自分が読むと「これってどうゆう意味なんだろう」と深く考えさせられるというか、不思議な気持ちになります。 >>3曲目の「夏の嵐」は日常のスケッチのような曲です。沖さんの曲はメッセージに聞こえる時、情景が浮かぶ時、短編小説のように感じる時と様々な表情があるのですが、この曲はどんな時にできたのですか? 沖:もともとのきっかけは去年の七夕の日に新宿LOFTで行われた「初恋の嵐」さんの活動休止ライブの開場時のBAR STAGEアクトとして参加させてもらった事です。そこに出るのだったら新曲を持って行きたいな、と思いながら当日は間に合わなくて(笑)その時期に作った曲です。 夏の嵐の雰囲気ってすごく不思議で、独特の高揚感みたいなものがあって。そういった気候によって感じる自分の心境とかソワソワする感じをシンプルな短い曲にしたかったんです。 雲の流れる速さとか、非日常感というか、映画のワンシーンみたいだなと思っていて。 >>なんだか不思議なラブソングですよね。 沖:曲に出てくる「会いたい君」っていうのは誰を思い浮かべてもいいんです。会えない人でもいいし、好きな人でもいい。そうゆう非日常だからこそ考える想いが伝わればいいな、と思っています。 >>「負けました」のように「自分の歌を届けたい」という気持ちがどんどん強くなってきていると思いますが、シンガーソングライターとして歌い始めた10代の頃と気持ちの変化はありますか? 沖:歌い始めたばかりの頃は「私を見て!」という気持ちが強かったです(笑)その年齢でしかできない一方的なコミュニケーションというか。それも良いのですが、今はもっと歌に寄り添っていきたいと思っています。 暮らしてゆく中で「今日はうまくいかなかった」とか、悔しかったり、訳もわからず落ち込んだりする部分はみんな抱えている事で、それを表に出す人と出さない人がいると思うんですけど、そんな気持ちになった時に選んでもらえる曲になったら光栄だな、と思っています。 インタビュー&テキスト 野中なのか 写真 河本悠貴 [SPECIALページに戻る] [むこうみずレコード TOPページに戻る] Copyright (C) MOVING ON,INC. All Rights Reserved.
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